2013年9月30日月曜日

【ちょっと気になるアート入門16 舟越桂 1951‐】『版の上も、人生も、やったことだけが“あらわれる』


1980年代から深淵で 複雑な精神のありようを捉え、
人物彫刻を制作してきた舟越桂

小説家 天童荒太の「永遠の仔」「悼む人」の表紙を飾る
彼の彫刻を見たことがある人もいるだろう。





ただ、今回見てきたのは彫刻ではなく、新作の版画。

彼曰く、「版画には、デッサンでも、彫刻でもできない
世界があらわれることがあるそうだ。

制作にあたって使われたメゾチントという技法は、
いったん真っ黒にして、白く抜く作業で像が浮かぶ。


このメゾチントを、少しひも解いてみる。

メゾチント Mezzotint(伊)
“直刻法による凹版技法の一種。
フランスではマニエル・ノワール(黒の技法)と呼ぶ。
ロッカーもしくはベルソと呼ばれる道具(先端が櫛のように細かく刻まれた弧状の刃物)を
版全体に当てて無数のまくれを作り、それを削ることで描画する。

削り取った部分が白く浮かび上がり、その加減でやわらかなグラデーションができる。
まくれを作る作業(目立て)をムラなく行なうには相当の手間を要する一方、
まくれは圧力でつぶれやすいために耐刷性に乏しく、印刷枚数は限られる。

ドイツのL・ジーゲンが17世紀半ばに発明し、イギリスで肖像画家制作技法として広まった。
絵画の複製に盛んに用いられたが、リトグラフや写真製版の登場とともに急速に衰退。
20世紀に入ってからこれを復活、発展させたのが、長谷川潔である。
また長谷川に次いでこの技法を開拓し、カラーメゾチントを開発した浜口陽三の名も特筆される”      
                              
                                    (『現代美術用語辞典2.0』より)



長谷川潔 『狐と葡萄


浜口陽三『西瓜』




物理的には、“現れる”、
しかし、善い事が、“顕れる”という意味では、
人間に対する“祈り”に似た表現に近いと思った。

あらゆることがそうかもしれない・・・。

原因と結果ということにさかのぼれば、
人間の原罪と、現在に向き合うことから、逃れられない

ただ、そう思うと、暗澹たる気持ちに沈む一方、それとは違う、
真逆の、未来へ臨む気持ちも、かき立てられもするのだ。


つまり、版の上も、人生も、やったことだけが“あらわれる”

“自分の中を見つめる視線を表現していきたい”、
と言った言葉を受けて「ダブル・イメージ」というテーマを思いながら、
もう一度『オーロラを見るスフィンクス』を見た。

人は、聖なるものと、その逆のものをもつ。
それを強く印象づけられた、そんな版画だった。




0 件のコメント: